研究開発実験装置 導入事例2 産業技術総合研究所 富永 淳二さん

工学博士 富永 淳二さん,産業技術総合研究所,ナノエレクトロニクス研究部門,首席研究員

産業技術総合研究所とは。

産業技術総合研究所は日本の産業を支える環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、計測・計量標準、地質という多様な6分野の研究を行う我が国最大級の公的研究機関です。
本部を東京及びつくばに置き、つくばセンターを除く全国8ヶ所にそれぞれ特徴ある研究を重点的に行う地域センターを配しています。総職員数は約3,000名。その内2,000名以上の研究者が、組織・人材・制度を集積する「オープンイノベーションハブ」構想の基に、産業界、大学、行政との有機的連携を行い、研究開発からイノベーションへと展開しています。(産総研HPより)

先生のご専門と、研究内容について教えてください。

PCRAMの研究のために、2007年頃からULVAC製の高真空スパッタ装置(MPS)を使用させて頂いていましたが、使用頻度が高くなり設備追加を検討した中で、ご縁がありULVAC製のスパッタ装置を購入させて頂く事になりました。
今回購入させて頂いたスパッタ装置(QAM)は、既設装置(MPS)のヘリコンカソードが搭載されており、性能面も同等で、拡張性があるのが嬉しいですね。次に何かをしたいと言う時に、増設が出来ます。
MPSと比較すると、自動化(生産設備並みの制御性)されているので、サンプル作業時間は1/3になりました。操作性も今までのアルバックの成膜装置に比べ改善されているのも実感しています。ターゲット交換も楽です。今、現場では女性が使っているので、女性が使いやすいと思ってくれているのであれば良い装置ではないでしょうか。
超格子膜は、今までヘリコンカソード源を使用して作製していたので、今回もヘリコンカソードで作れて非常に満足しています。

ヘリコンカソードの良さはどこですか?

通常のスパッタ装置では基板とターゲットの距離は40mm~50mmであり、プラズマの一部が基板表面にさらされてしまいます。しかし、ヘリコンカソードはプラズマのスタビライザーであるアンテナが搭載されているので、基板との距離が遠く(150mm)に配置出来、プラズマの影響を受けにくくなっています。だから、原子フラットな膜をMBE(電子線エピタキシー)以外で製作するならヘリコンカソードが最適であると考えています。

ノーベル賞クラスの結果が出ているとお聞きしていますが・・・

新規に開発中の固体相変化メモリーの技術がノーベル賞級の価値があるらしいですね。今までに無い様な、ビックリするデータが出ています。室温から150℃程度の温度範囲で2000%を超える磁気抵抗(MR)効果が出ています。もちろんQAMでもほぼ同じデータが再現出来ています。
スイッチ電流特性を熱力学に出てくる「マックスウエルの悪魔」をうまく騙して、可能な限りまで小さくする、自然調和型の技術ですが、これに「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる新しい発見が加わりました。このことが注目される理由だと思います。

どうしてその道に進まれたのでしょうかか?

どうして産総研で研究されることになったのですか?

身の上話になりますが、まず大学院修士課程を卒業して、TDKに就職しました。最初は薄膜ハードディスクのメディアの研究をしていましたが、会社の留学制度で、イギリスのクランフィールド工科大学に留学することになりました。
帰国後、相変化光ディスク(書換型)の研究を始め、商品化するまでこぎつけましたが、その後、他に研究したいことも出てきたため、ちょうどその頃研究員募集をしていた産総研に入所することになったのです。
留学時代、イギリスにいた恩師に「俺の目の黒いうちは俺のわからない言葉(日本語)で論文を書くな」と言われていたんです。そして年2、3本は論文を書けとも。7年コツコツと研究を続け、論文も増え、特許も海外を含め100くらいはありました。それが評価されて入所できたのだと思っています。恩師のおかげです。

IBM賞を受賞されたとお聞きしていますが・・・

入所当初のメンバーは3人で、新しい研究グループで始めました。
最初の6か月は文献をひたすら読んでいましたが、そのうちに気づいたことが、IBM賞につながる研究になりました。

IBM賞受賞

研究テーマ

QAMの良いところ=ヘリコンカソード

先生の研究スタンスをお伺いできますか?

まずは、論文を徹底的に読みます。読み込むことで矛盾点・盲点を見つけ出します。 そして、自分は考え抜きます。今までのやり方、理論でダメであれば、正攻法でもきっとダメですね。そうであれば、違う方向から物事を見て、解決する手段を見つければいいのです。突拍子な、理論に則ってないものはダメですが、学校で教わったような確信を持てる技術で覆せるとわかったら、そこに向かって進めば突破できます。
また、必ず自分で実験して、はっきりと確証の得られるものしか信じないようにしています。例えば昔、学生を持っていた頃は、学生が出したデータを土日に研究室に来て自分で確認することもありました。決して学生を信じていないのではなく、必ず自分の目で確認しなければならないと思っているからです。

研究で面白いところなどは?

皆さんからよく聞かれますが、実は研究は嫌いなんですよ。生きていくため、食べていくために研究を続けている感じです(笑)
しかし、嫌いなものを神様は課してきますね。嫌いと思って逃げ続けているものに限って、「今やらなきゃ、だめだよ!」と神様が言っているような気がします。だから正直面白いところなんてありませんね(笑)
うまくいかなかったら、家に帰ってヤケ酒を飲みますし、いいことがあったら、良かったねとお酒を飲みますし・・・この繰り返しですね!
これが私の研究人生かな・・・。

アルバックユーザー
としての流れ

アルバックとは15年以上のお付き合いになります。TDK時代はインラインスパッタ装置を使ったことがあります。超高真空装置がアルバックとのご縁の始まりです。
昔のアルバック装置は、どっしりとしてカッコ良くても使い勝手に欠けるという印象でしたが、今回導入したQAMはスマートで洗練されたデザインになりましたね。とても使いやすいデザインだと思います。

QAMの色をカラフル色(やまぶき色)に指定されましたが・・・

イギリス留学時代、装置は赤やオレンジ色で研究室に映える色でした。明るい色だから頭とかぶつけたりせずに安全ですし。産総研では工場指定色はないので、やまぶき色に指定させてもらいました。

アルバックテクノも含めて、アルバックの人たちはどうですか?

こうして欲しいとお願いしたことを全て実現していただける、技術力を持った人たちですね。「できません」と言わないところが本当にすごいです。
ヘリコンカソードがラインナップから無くなりましたが、私の「超格子膜をヘリコンカソードで作りたい。」という願いを、熱心な担当者の方が叶えてくださったのは本当に感謝しています。

アルバックユーザーとしての流れ

趣味:ラジコングライダー

実験がうまくいかず、むしゃくしゃしている時などに最高です!
どこかで息抜きしないと研究職は大変ですよ。IBM賞をもらったとき、大きなラジコンがすっぽり入るVOLVOを買いました。もう、10年くらい使っていますが、なかなか壊れません。こういう機械というのは、情が湧きますね。使い勝手もいいので、ずっと愛用しています。

野球がお嫌いだとか

自分は文科系サークル(物理愛好会)だったのですが、高校の野球部が強くて、こちらまで部費が回らなかったんです。だから、お年玉つぎ込んで太陽炉とか色んなものを作っていました。だから、野球が嫌いなんです(笑)
でも、一回だけ野球が好きになったのは、バースがいた時代、’85に阪神が優勝した時です。縦縞のユニフォームが良くて、阪神ファンになりました。
でも今でも野球は嫌いですよ!